packさんお年玉企画①2021年
『空がこんなにも眩しかったのを知らなかったから』
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- この男の元に来てどれくらい経っただろうか。
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生まれた時、色違いというだけで群れから追いやられてしまった。良くある話だ。
そんなポケモンの多くは、街にたどり着き残飯を漁って生き延びるか、それとも誰かの飯となってしまうか、、、このパターンがほとんどだ…が、稀に誰かに捕まえられるパターンもある。俺は偶然そのパターンだった。
なんて事はない。飯を漁っていたら黒ずくめの男達に狙われていた。抵抗はしなかった。
正直、こいつらが悪いやつらなのは分かっていた。野生のポケモンも馬鹿じゃない。それくらい分かるさ。
ただ、もうどうでもいいという感情と、もしかしたら安定して飯にあり付けるかも、という淡い期待があった。
そんな一縷の望みに賭け博打を打った。
ポケモントレーナーも困ったら一撃必殺や怯みを狙うだろ?そんな気持ちだったよ。
結果、ありがたい事に色違いということで丁重に扱われ安定して飯にはありつけた。
博打は大勝ちと言ったところか。
恐らく俺は献上品なのだろう。
適度な運動もあって気が付いたらリザードンにまで進化していた。
ここまで来れば、もう後は野となれ山となれ。
そろそろ誰かの元に出される頃合い。
黒色という事もあって悪タイプと思われたのか、どうやら悪ポケ使いの男に献上されるようだ。その男の名はpackというらしい。
この男との出会いは何とも事務的な出会いだった。
そこからはお互い干渉しない距離感だった。
本来なら悪ポケの使い手。炎飛行の俺の扱いにはそれなりに苦慮していた様に思う。
それでも酷使されるわけでもなく、1匹の手持ちとしてキチンと扱われた。
その恩義に応える様に俺も歩み寄る努力はした。
…だが、それはすぐ辞めた。
同じ色違いのブラッキーがいたから。
そいつを見つけた時、親近感が湧いた、無性に嬉しかった。
すぐに話しかけに行ったが、この男との関係性を目の当たりにして、身を引いた。
同じ色違いでも、こうも違うのか。
確かに俺も色違いで特別な存在だろう。
だが、誰かにとっての特別な存在ではない。
この差は大きい。
この男に特別な感情はなかったが、それでも惨めな思いをすると感じ、そこからはビジネスライクに生きた。
そこは徹底した。俺なりの意地だった。
それでも、たまに虚になる。
元々俺は炎飛行タイプ。
本来なら明るい世界で行動する。
それに対し、こいつは悪ポケ使いで夜に行動する。
追われている身なのだろう。
物音には敏感にならざるを得ない。
残飯を漁っていた頃の記憶が蘇りウンザリする。
それを知ってか知らずか、珍しくこの男が昼間に街に出た。
どこに行くアテがある様にも見えない。
フラフラ、フラフラと。
ようやく行き着いた先は一つの孤児院だった。
何やら職員と話している。
職員は仕切りに頭を下げている。
俺は体よく手放されるのだろうか。
そんな考えは大体的中する。
ポンッとモンスターボールから出された。
出された指令はただ一つ。
『この孤児院を守れ』
たったこれだけだった。
どうやら、この孤児院は輩に狙われて何度か襲撃を受けているらしい。
この男と一緒にいたお陰で修羅場もくぐり、俺はそれなりのレベルになっていた。
それで俺に白羽の矢が立ったのだろう。
まあ、要するに己のシマを守るために駆り出されたのだ。
ただ、それでも構わないと思った。
この男との仁義は果たせる。
それに…俺にとっては、この男の元にいて夜に活動するよりも、ここにいた方がきっと良いのだろう。
すでにここの子供達に群がられ珍しがられている。
ここでは確かに誰かにとっての特別な存在になれる。
そんな少しの嬉しさで寂しさを紛らわせながら、ビジネスライクにここの職員の手持ちとなる瞬間
『…達者でな。頼んだぞ。』
確かにこの男からそう聞こえた。
この男はどこまで分かって言っているのだろうか。
ぁあ、目が霞んで上手く前が見えない。
あの男の去っていく後ろ姿が滲んで見えない。
空の眩しさだろうか、前が見えないのは…きっと…
暗闇の世界から来た俺にとってこの空は眩しすぎたよ。
〜fin